みんなの健康講座
広報 はつかいち より HATSUKAICHI


平成15年3月1日号 No.931

ヒトは血管と共に老いる
-高血圧と動脈硬化の話-

佐伯地区医師会 廿日市支部 斉藤 裕次

血圧の単位はミリメ-トル水銀柱(mmHg)で表します。水銀の比重は水の重さの約13.6倍ですから、これを水圧に換算すると、例えば血圧が120ならば、120ミリメ-トル×13.6=1,632ミリメ-トルとなり、163センチメ-トルの高さまで水が吹き上がる圧力となります。いかに人間の動脈内圧が高いか分かると思います。こんなにヒトの血圧が高いのは、約3億年前に人類の先祖の脊椎動物が海から陸に上がって重力にさらされているためです。水中の重力は地上の6分の1のため、魚の血圧は10ミリメートル水銀柱と極端に低いのです。

人の動脈壁は、生きている限り高い圧に始終さらされており、年齢と共に血管が老化、疲労するのは容易に想像できるでしょう。「人は血管と共に老いる」というオスラー博士の言葉は、人間の老化の原因が、実は血管の老化と密接に関係していることをうまく表現しています。高血圧が長く続けば血管壁は古いゴムホースのように硬くなり(動脈硬化)、その結果としてホースが裂け(脳出血など)、あるいはホースの内腔が狭くなったり、詰まったり(心筋梗塞、心不全、脳梗塞など)しがちとなり、かくしゃくとした老後にはほど遠い生活とならざるを得ません。

では生活習慣は血圧にどのような影響を与えているのでしょうか?以下3つの場合を挙げます。

① 食事の中の食塩(ナトリウム)は水を引きつける作用が強く、血液量を増やし高血圧となります。海から陸に上がった人類の祖先の脊椎動物は、血圧を上げるために最も必要な食塩が陸では非常に少なかったため、1日1.5グラム以下の食塩でも血圧を維持できる遺伝子を獲得しました。このようにヒトは本来多くの塩を必要としない体になっているのです。ところが、江戸時代後期からはだれでも塩を不自由なく食べられるようになったため、食塩の摂取量が増え、高血圧で倒れる人が増えました(現在の日本人の1日の平均食塩摂取量はなんと12グラムから15グラムにもなります)。

② 肥満になると、血液中のインスリンという血糖に関係するホルモンが過剰に放出され、末梢血管の平滑筋を肥大させ抵抗が増し、結果的に高血圧となります。

③ 末梢血管、中でも特に細動脈は平滑筋で成り立ち、交感神経が支配しています。緊張や強いストレスにより交感神経の活動が高まると、血管が収縮し、抵抗が増し、血圧が上昇します。

①の食塩過剰に対しては、塩分摂取量を1日約8グラム程度に減らすことです。
 ②の肥満に対しては、運動と減食を組み合わせて減量を図る以外ありません。
 ③のストレスには、気分転換をする工夫や充分な睡眠が有効です。

これ以外に、軽い運動療法が血圧の低下に良い影響を及ぼすことが最近、分かってきました。軽く汗ばむ程度の速歩を1回30分から60分、週に3回以上行うとよいでしょう。長く続けることが血圧を下げるコツです。こういった努力を3か月以上続けても血圧が下がらない場合に降圧剤を服用するのがよいと考えます。

最後に適正な血圧とはどのくらいなのでしょうか?以前は収縮期血圧140以上、拡張期血圧90以上(140/90)とされてきましたが、最近の日本の臨床研究では、120/80前後が最も高血圧による発作が少ないことが判明しつつあり、将来はこれが望ましい血圧値の目標になるでしょう。